幸せな音

【ひみつの姫君うわさの王子】【狼陛下の花嫁】二次創作サイト。2012/1/12/開設
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プロ妃

黎翔×夕鈴(偽夫婦)

 
ふわり。
そっと抱き締められた、と同時に黎翔の指が夕鈴の指に触れる。

「――夕鈴」
「っ……!」

耳元で囁かれる低く甘く胸に響く狼の美声。狼の声を聴かされる度に身が委縮してしまうのは怖いだけじゃない。布越しに伝わる手の熱さに慣れない。
「あ……の、陛下……」
名を呼ばれ、応えようと喉から出た声は震えてしまっていた。指を絡めとられるのを見ていると、頭上でクス、と小さな笑みが漏れたのが気配で分かった。
「……まだ慣れぬか、わが妃は」
少しからかうような声色と、余裕綽々な態度を見せる黎翔が恨めしい。
「っ、すみません……」
恥ずかしいのも相まって顔を上げられずに慌てて謝る。なんだか顔が熱い。
(赤くなってないかしら)
すると今度は――ふ、と黎翔が微笑んだような気がした。ただ、恥ずかしくて俯いていたから本当かどうかは分からないけれど。
(ていうか、やっぱりこの体勢は恥ずかしすぎる!)
ここは妃の部屋。そして今は夕餉を済ませた後のお茶の時間のはず。
政務室じゃないのに。
周りに女官もいないのに。
演技する必要もないのに。
(どうして陛下は狼陛下になって私を膝に座らせているのよ!?)

今から数刻前。夕鈴はいつものように女官と共に夕餉の準備をして、黎翔のお帰りを待っていた。
そう、いつものように。

コツコツと歩く黎翔の沓(くつ)の音が回廊に響き、近づいてくる。あと数歩で入口に現れると分かるようになったのは、つい最近の話。
「――お帰りなさいませ、陛下」
「待たせたな、すまない、妃よ。昼間に政務室で会ったと言うのに、夕刻以降しばらく君の顔が見えないとやはり花が足りないように私の心は物足りなかった。私がいない間、君は寂しい想いをしなかったか?」
たった数刻――会っていなかった分、狼は夕鈴の髪に触れながら甘い言葉を紡ぐ。
この触れ合いも甘い囁きも、最近さらに数段甘くなったのは、気のせいではない。
「あ……さ、寂しかったですけれど、ご政務ですもの。……こうしてお顔を拝見できるだけでも、幸せです」
頬を染めながらも夕鈴は微笑んで「妃」を演じていた。
(ああもうこの人ったら! どうしてこう、するするとこういう台詞が口から出てくるの! 毎日毎日こんなこと言われてるけど、いつもパターンが違うからこっちは対応できないっていうのに……! ああっ女官の視線が! ごめんなさいこれは演技なんです! いたたまれないわーっ!)
「あ、の、陛下」
いつまでも髪を撫でる夫の袖をくいっと引っ張り、女官に聞こえないよう、そっと小声で呼びかけてみる。
『もうそろそろ演技はいいんじゃないでしょうか』
女官が傍に控えている手前とても口には出せない内容なので、そういう気持ちを込めて黎翔をじっと見つめてみる。
(通じるかしら。早く気づいてほしい。心臓がもたないからあまり長くは見つめられないけれど……)
視線の意味に気付いた黎翔が夕鈴の意思を汲み取ってくれたらしく、顔を上げる。
「お前たちは下がれ。今夜はもうよい」
そう言って黎翔は、控えていた女官を下がらせた。これで部屋には夕鈴と、小犬陛下の2人きり。
(あぁ、これでやっと緊張が解ける)
……そう思っていたのに。

「夕鈴。君はこちらへ」
『君』?
(――え。ちょっと待って。どうして、まだ狼なの?)
「ちょ、あのっ、へ、陛下っ?」
黎翔は夕鈴の腕を取って長椅子まで連れて行く。そして黎翔が先に長椅子に座り、夕鈴を自分の膝の上に座らせた。あまりにも自然な動作の流れに夕鈴は逃げる隙を失った。
「え、え、陛下!? ななな何ですか急にっ」
夕鈴が黎翔の膝から逃げるように立とうとするものの、いつのまにか腰をがっちり掴まれていてびくともしない。
(くっ……! 日々足腰鍛えてる主婦でも敵わないなんて!)
「君も今日の昼間見ていたように特に忙しかった。君が政務室を出た後も仕事が持ち込まれて疲れたからな、君に疲れを癒してほしい」
「へ? 癒し、って? あの、それなら先にご飯を食べて早くお休みになられた方、が……」
まだ狼陛下のままでいる黎翔の様子に戸惑いつつも、夕餉を勧めるために振り向こうとすると途中で遮られた。耳元で低く囁かれたからだ。
「……ふ、相変わらず鈍いな、わが妃は。そんなところが愛らしくて私をますます夢中にさせて離さないのだが。……夕餉よりも睡眠よりも、君と……花嫁とこうして傍にいることが私の最大級の癒しなのだが?」
「~~っ!?」
ストレートな言葉を受け止めて驚いている間に、黎翔の空いている方の手に右手を取られ、いつのまにか指を絡めとられていた。
「……まだ慣れぬか、わが妃は」
「……っ、すみません……」
「しばらく私に付き合ってくれると僥倖だ」
「……っ」
静寂に包まれた中で、胸が鳴ったのは、どうしてだろう?
なんだか顔を上げたくなって見上げてみると、狼だけど、どこか柔らかい微笑みを向けられていた。
狼陛下はずるい。
(こんな表情されたら、いやって言えないじゃない……!)
「……わ、分かりました……! これもプロ妃として当たり前ですよね!」
「……」

(プロ妃――か。まだ私の機微を分かってくれていないみたいだ)
けれどやはり夕鈴らしい。彼女だからこそ、すべて許してしまう。
ただ、膝に乗せているこの小さな体の緊張は未だに解けないから、もう少し緊張を和らげるためにもこのくらいで勘弁してあげようか。
「……ね、夕鈴。今日政務室の後は掃除をしていたの?」
狼から小犬へシフトしてみると、変化した声の具合と表情を察した夕鈴は安堵したようにほっと力を抜き、楽しそうに今日の1日の報告をしてくれた。
「はい! 今日はいつもよりもう少し奥の部屋を掃除してたんです。使われなくなってだいぶ経つらしくてかなり汚れていたんですけど、そこはもー主婦の力試しですよっ! 明日も続きをするんですけど、腕が鳴りますっ」
目を合わせて笑顔を向けて話してくれるだけで、彼がその日の苛立ちや疲労が一瞬にして癒されることを、夕鈴は気づいていない。
彼はこの笑顔を見られるだけで本当に幸せなのだ。
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