幸せな音

【ひみつの姫君うわさの王子】【狼陛下の花嫁】二次創作サイト。2012/1/12/開設
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雛祭りと求婚

雛祭りを題材にした捏造SSです。
黎翔×夕鈴(偽夫婦)

 
夕鈴がいつも通りに黎翔を部屋に迎え入れると、部屋のある変化に気付いた黎翔が尋ねた。
「夕鈴、これは――桃の花?」
「はい。今日は3月3日ですから」
「3月3日、だから?」
納得のいかないらしい黎翔に向かって、夕鈴は微笑みながら教えた。
「桃の節句ですよ」
――桃の節句。それは女の子の健やかな成長を祈る節句の年中行事。
掃除のバイトを終えてから夕鈴は老師に頼んで庭にある桃の木から何本か頂戴したのだ。
そして侍女の2人に手伝ってもらい、部屋の至る所に桃の花のついた枝を生けた。そのため、部屋には摘み取ったばかりの桃の香りがほのかに漂っている。
「陛下は桃の節句って知ってますか?」
「あぁ、うん。前に文献で読んだだけの知識なら。確か、女の子の成長を願う節句だよね。えぇと、男雛(おびな)と女雛(めびな)、三人官女、五人囃子。それから右大臣と左大臣……そういう集大成の7段の雛人形を飾るんじゃなかったかな? 昔は雛人形は身分の高い女性の嫁入り道具の1つだったらしいね」
「へぇ、嫁入り道具だったんですね……それは知りませんでした」
「夕鈴は雛人形持ってる?」
「はい、でも家はお内裏様とお雛様だけなんです。今年は雛人形を飾れないので、せめて桃の花と白酒だけでもと思って……。下町だと菱餅を各家庭で作ったり、雛あられっていうお菓子を飾るんですよ」
「へぇ、白酒? 夕鈴が作ったの?」
興味津々に尋ねる黎翔に、卓の上に載せていた盃を渡す。
「元々仕込みはしていたので、今日の掃除バイトの後に厨房をお借りして作ったんです。どうぞ、温めておきましたよ」
用意していた熱燗を手に取り、黎翔の持つ盃に注ぐ。
そして、杯を口元に寄せ、白酒を口に含んだ。
「……うん、美味しい。こういうの初めて飲むよ」
「お口に合って良かったです。私もいただきますね」

――去年までは夕鈴は臨時バイトではなく実家で働きに出ていたため、毎年欠かさずきちんと飾っていた。ただし、お金持ちの家の女の子が持ってるような7段の立派なものではなく、お内裏様とお雛様だけの、質素だが昔夕鈴の両親が用意してくれた大切なもの。
若くしてお嫁に行って、嫁ぎ先で子どもを産み、家族のために一生懸命働く。それが下町で生きる者の常識。
だからこそ、お嫁に行くのが遅くならないためにどの家も3日が終われば早く片すのが通例である。
しかし夕鈴の家は、母が死んだ後は夕鈴がいないと家のことがきちんと回らなかった。それに、残される幼い青慎のためにも早くお嫁に行ってはダメだと思い、雛人形はわざと3日を何日か過ぎてから片していた。
その結果――ではないが、実際嫁き遅れと言われる年齢にまでなってしまった。別に早く片さなかったのを、今さら後悔しているわけじゃない。
(でも、本当にこの年まで貰い手がないなんて、あの頃は思わなかったわ……)

「ね、夕鈴。その雛人形っていつまで飾るものなの?」
夕鈴が逡巡していると、不意に黎翔が尋ねた。
「えっ。あ、3月3日の前後ですよ」
「ふーん。それって絶対決まってるの?」
黎翔の盃が空になったタイミングを見計らい、白酒のお代わりを注ぐ。まだ十分に温かく、空気に触れた白酒に湯気が立つ。
「絶対ってわけではないと思います。亡くなった母の実家がある地域では、雛人形を4月の末まで飾っておく風習があったりしますから。でも普通は3日を過ぎてから片付けると、お嫁に行くのが遅れるって云われがあるんですよ」
「お嫁に行くのが? どうしてそんな風に言われているの?」
「雛人形は春の飾りものだから、季節の節できちんと片付けないとダメなんですよ。けじめをつけないでだらしなくしてると考えられて、嫁の貰い手が現れないって考えらしいです。あくまで云われですけどね」
「夕鈴は云われの通りにちゃんと片付けてたの?」
「……いえ、私は……1年に1回しか飾らないのに少しの間しか出さないから、なんだかもったいなくて。いつも3日を過ぎてから片付けてました。だから几鍔の言う通りじゃないですけど、17になっても嫁の貰い手がないのかな――って……」
「嫁の貰い手の心配ならしなくてもいいよ」
落ち込んだ気配を感じ取ったのだろうか、すかさず黎翔が夕鈴に告げた。
心配がないというのは、下町の皆の言う通り「王宮勤めの経験がある女性」というある程度の箔がつくからだろうか。
夕鈴は黎翔の突き放したような言葉に少なからずショックを受けたが、黎翔はそんな夕鈴の様子にお構いなしに、隣に座る夕鈴に無邪気な笑顔を向けた。
「夕鈴は僕のことは好き?」
「へっ? す、好き……って」
(もしかして私の気持ちがバレた!?)
焦る夕鈴は慌てふためく一方で、答えを待つ黎翔はと言うと、何らいつもと変わらない小犬陛下のニコニコとした可愛い顔。
(……バレてない、みたい?)
もしや本当にただ好きか嫌いか聞いてるだけなのか。深い意味なんてないように見える。それならば平気な顔して答えないといけない。
「わ、私は……」
ここで言い淀んだら不審に思われる。そう思ってはいるのに、家族に向けて言う「好き」の2文字が出てこない。
ふと気付くと、黎翔はいつのまにか杯を卓の上に置き、夕鈴の方に身を寄せていた。
「――夕鈴」
ぞくり。
耳に入って来たのは、狼陛下の低い声。途端に2人の間にある空気が張り詰める。
「……っ!?」
夕鈴が顔を上げると、狼陛下の微笑が自分の方に向けられていた。そして次に発せられた言葉に、夕鈴はこれまでの堅実な人生で最も衝撃を受けることになる。

「――私の本物の花嫁にならないか?」

………………。
私の――本物の花嫁に――ならないか?
もう一度心の中で言葉を反芻するものの、言われたことに頭がついていかない。
(本物の花嫁、ですって……?)
動揺して視線を泳がせながら視界の隅に入ったのは、先程一緒に盃を交わした白酒の熱燗。それを見て、意識がはっきりする。
「……陛下、もしかして酔ってますか……? 冗談やめてください!」
口から出た声は、自分で思っているよりも冷静だった。
涙が溢れそうになるのを堪えて気丈に振る舞うと、黎翔は眉間に皺を寄せて少しむっとした。
「心外だ、酔ってなんかいない。君は、私が酔った勢いでこんな大切なことを冗談で言うとでも?」
「っ……」
(だってそうでしょう?)
狼陛下は「演技」なんだから、紡ぐ言葉だって完全に信じることができない。どこまでが本当で、どこまでが嘘か――その境界は、夕鈴にはいつも分からなかった。
バイトとしての線引きをされていることもあり、さらにその上嘘と本当の境がわからないのも含め、それらが夕鈴の抱える一抹の不安でもあった。
黎翔は下から両手を伸ばして頬を固定し、ぐい、と顔を自分の方に向けさせた。鼻先がぶつかるような距離に黎翔の綺麗な顔がある。
「君が信じないなら信じるまで何度でも言おう」
「何をですか。も、お願いですから、離して下さいっ」
両手を剥がそうと抵抗するが、頬を包む手は柔らかいのに両手はびくともしない。そうこうしていると、黎翔がじっと目を見据えた。
「夕鈴、私は――君が好きだ」
降って来た短い言葉に夕鈴は抵抗を止め、目を瞠(みは)るしかなかった。
「……そんな、嘘です。ありえません。陛下が私を好きなんて、そんな夢みたいなこと、あるわけ……」
黎翔に向かって言っているのか、告げられた言葉を否定して自分を冷静に諭そうとしているのか、どちらなのかはっきり認識できなかった。
「夢? 現実だ。私が君に嘘をついたことはない。誓ってもいい」
「……ほん、と……?」
涙声で、最後の問いをする。
「――ああ」
好きな人の、短いながらもしっかりした肯定の返事に、今度こそ涙がぼろっと溢れ出た。黎翔は静かに優しく夕鈴を抱き寄せ、腕の中に納めた。
「怖がらせてすまない。泣かせるつもりはなかった」
優しい声で深く詫びながら、ぼろぼろ流れてくる涙を黎翔の指が優しく拭う。
「ちがっ……こ、怖かったんじゃありません……びっくりしたんです」
「そうか。夕鈴……君の返事は?」
最後の一滴(ひとしずく)を拭われ、夕鈴は柔らかく微笑む。
「……聞いて下さい、陛下」
ちゃんと目を見て応える。もう、嘘をついて隠す必要はない。
嘘偽りない本当の気持ちを告げる。
「私も陛下が好きです……。好き。好きなんです、ずっと、陛下のことが――」
やっと決めた覚悟を乗せたその先の言葉は黎翔によって奪われた。

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本当はプロポーズの台詞だけで終わる予定でしたが、ちょっとシリアス入れてみました。
反応がドキドキです…。

おまけ
「狼陛下が演技じゃない…!? 嘘ついたんじゃないですかっ! 陛下の嘘つき!」
「嘘はついてない。最初に君が勘違いしただけで、私は肯定はしてない」
「そんな言葉の文(あや)……!」
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