幸せな音

【ひみつの姫君うわさの王子】【狼陛下の花嫁】二次創作サイト。2012/1/12/開設



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狼まであと何秒? :: 2012/09/02(Sun)

5000hitのお礼SS
独立させて再度アップ

お題サイト様:確かに恋だった
無防備なきみに恋をする5題:狼まであと何秒?

黎翔×夕鈴(偽夫婦)

 
真夜中にはまだもう少し時間がある頃――白陽国を統べる冷酷無慈悲な国王陛下唯一の妃(バイト)である汀 夕鈴は、こんな時間にしては珍しく部屋の外――後宮にある黎翔の私室の扉の前にて立ち尽くしていた。
今夜は数年ぶりに流星群が降ってくると言われる日なのだ。前に見た時は、夕鈴はまだ幼く、おぼろげな記憶しかない。
それを老師に話すと、黎翔と一緒に見るようにと何度も念押しされた。そして黎翔に伝えると、一緒に見よう、と快く了承してくれた。場所は夕鈴の部屋で。
それにもかかわらず、黎翔は約束の時間を過ぎても部屋に訪れる様子は一向にない。既にお茶などの準備を済ませて侍女を下がらせていたために、自分以外の者に黎翔の様子を尋ねることもできない。
もしかして仕事が残っていたのかもしれない、と思った。でもそうならそうと一言言ってくれれば……とも思ったが、黎翔はそれを口にしないだろう。以前狼陛下を怖がらない特訓のために部屋を訪れた際も、隠し溜めていた仕事が露になった前科(?)がある。
あれこれ考えても埒があかないので、黎翔が来ない理由を知るべく、こうして夕鈴は黎翔の部屋の前にいるのである。しかし、扉の向こうの気配は感じられないほどに、物音ひとつない静寂が辺りを包んでいる。
「陛下、いらっしゃいますか?」
扉越しに声をかけてみたが、返事がない。しばらく悩んだ末、思いきって部屋に入ってみよう、そう決めて扉のノブを握った時、押してもいないのにノブが回り、扉が勝手に開いた。突然のことに驚く前に握ったままノブに引っ張られ、前につんのめった。
「あっ!」
(転ける――!)
夕鈴は反射で目を瞑り、転けるのを覚悟した。しかし、次に来るはずの衝撃は固い床ではなかった。
「夕鈴、大丈夫?」
上から降ってきた声に意識を戻す。見上げると、間近に黎翔の顔があった。あのまま転けたと思ったが、夕鈴は転ばぬまま黎翔に抱き留められている格好になっていた。
「す、すみませんっ! ありがとうございました。陛下、お部屋にいらっしゃったんですね」
「うん。滑り込みで仕事がはさまちゃって……時間までに終わらなくて。待たせたよね、ごめんね」
抱き留めていた腕を黎翔は気付かれぬよう、けれど名残惜しそうに離す。しゅんと耳が垂れたように項垂れる幻覚が夕鈴には見えた。
「お仕事、終わってないなら仕方ないですね……私、今日は部屋に帰りますね」
「ダメ」
「はい?」
「せっかくここまで来てくれたお嫁さんに申し訳ないから、このままここで流星群見ようよ」
「だ、ダメですよ!」
「なんで? 仕事ならもうあと目を通すものだけだから気にしなくて大丈夫だよ」
「でも……」
脳裏には仕事の邪魔はしたくない気持ちがある。けれど、流星群を一緒に見たい、でもやっぱり…。
そんな風に葛藤する夕鈴を黎翔は楽しそうに見つめている。
悩ませている間に何かが視界の横を過ぎ去るのを捉えた。ふと、窓に目をやった。
「あ」
感嘆の声を上げたのは黎翔の方だった。
「え?」
声につられて夕鈴も顔を上げると、部屋の窓から見える夜の空に流れ星が1つ見えた。
「え、あれっ! 今! 流れましたよ!?」
「うん、僕も見たよ。――ほら、夕鈴」
いつのまにか手を引かれ、窓辺に近寄る。黎翔が窓の幕を手で静かに払い除け、後に続く夕鈴の目にたくさんの流星群が映った。

「う、わぁ……! すごい! こんなにたくさん! すごいですね、陛下!」
先ほどのが始まりの合図だったのか、雨が降るように星が夜空から降っている。予想以上に流れる星たちに、夕鈴は思わず子どものようにはしゃぐ。
「うん、すごいね。前に見た時は……こんなに流れてなかったな」
「はっ! 陛下、お願いしなきゃもったいないですよ!」
「そんなに慌てなくても当分は流れっぱなしだよ。何をお願いするの?」
くすくす笑う黎翔を見て、夕鈴は少しはしゃいでるのを抑えた。
「まずは借金返済です!」
きっぱりと即答したら、夕鈴らしいなぁ、と黎翔は寂しげに笑った。
「それから?」
「あとは青慎の官吏合格ですね。陛下は? 何をお願いするんですか?」
隣に立つ夕鈴に黎翔は目線を離さずに告げる。
「そうだね……星に願うなら、僕は自分で叶えるよ。――たとえば、君が本物になるように、と」
「私が、本物?」

夕鈴が不思議そうに黎翔を見上げる。どうやら意図が分からないようだ。今は仮初めの花嫁だが、いつか――近い将来、必ず本物の花嫁に。
この答えを教えるには、このままの小犬では分からないに違いない。切り替わるのは息をするのと同じく、ほんの一瞬。狼陛下まで、1秒にも満たない。黎翔は疑問符を浮かべる夕鈴の問いに答えず、ただ妖しい笑みを浮かべながら見遣る。
場の空気の変化と眼差しに気づいた夕鈴は、思わず息を飲み、目を見瞠った。
それから黎翔は静かに彼女の細い手を取り、見せつけるように指に口づけた。
「……!?」
口づけられた夕鈴は硬直し、闇夜に映える白く、簡単に手折られそうな首筋が瞬時に朱に染まった。
何の危機感も持たずに無防備に男の部屋まで来た無自覚で愛らしい花嫁に、黎翔とて『狼』だということを教えてやりたい。
「夕鈴――」
「な、なんで今、狼陛下なんですかっ」
告げようとしたまさにその時、目を潤ませて叫んだ。
なんでだと、まだ聞くのか。その答えは決まってる。
「……無防備な君が悪い」
「はい!? 意味が分かりません!」
「まだ分からないのなら、今夜、身を以て教えようか?」
よりいっそう色香を漂わせた黎翔に、夕鈴はようやく危機感を抱いた。
「あ……ななな何を、言って……! も、もう部屋に戻ります!! 陛下はお仕事してください!」
なんとか手を振り切り、脱兎のごとく逃げ去った。そうして部屋に取り残された黎翔は、苦笑を漏らしながら一人ごちる。
「逃げられた、か。あまり、私の前で無防備にならないのが身のためだと、教えてやりたかったな」
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