幸せな音

【ひみつの姫君うわさの王子】【狼陛下の花嫁】二次創作サイト。2012/1/12/開設
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兎女王と小犬婿 1

If話
夕鈴=白陽国女王。21歳
黎翔=庶民の臨時婿。17歳
キャラ設定転換のため、苦手な方は戻ってください
導入部分は原作沿いです

 
白陽国王宮のさらに奥の奥。
とある一室で、珀黎翔は言われるままにひれ伏して静かに待っていた。
「陛下がいらっしゃいます」
側にいた眼鏡の男が待ち人の登場を教える。一気に緊張が高まり、鼓動が逸る。
しばらくすると衣擦れの音が近づいてきた。音が正面で止まる。
「――面(おもて)をあげなさい」
凛とした声で促され、黎翔は床に向けていた顔をそっと上げていく。礼儀を忘れないようにして見上げた視線の先には、華やかな深紅の着物を着て鎮座する1人の女性の姿があった。
耳から下の髪を半分ほど垂らし、残りは結い上げられた柔らかな栗色の髪。一目見た印象とは裏腹の圧倒的な存在感と威圧感。
涼しげな顔に浮かぶは、冷たい微笑み。大きな双眸が、引き寄せられたように視線を逸らさない黎翔を捉える。
(彼女が……)
「珀黎翔殿」
「……は、はい」
逸らしていた思考が呼び戻され、返事が一拍遅れる。
「貴方の仕事はこの1ヶ月間を後宮で過ごしていただくことです」
「……えっ!? あのっ僕の仕事は短期の王宮勤めと伺っていたのですが……!」
「ええ、ですからそれとお伝えしています。貴方にお務めしていただくのです――女王陛下の臨時の婿として」
言われた内容があまりにも突飛すぎた。
いや、そもそも一庶民でしかない自分の目の前に女王が座っている状況からしてありえないのだ。
黎翔は狼狽するが、眼鏡の男――女王の側近である李順は無視して事務的に述べてゆく。
「この件に関しての詮索は一切許可しません。貴方は雇われていることは他言無用。表面上は陛下の婿として暮らすだけなので、そう難しいことではありません」
怪しすぎる、と黎翔は不審に思った。状況を理解すればするほど青ざめてゆく。
(だいたいなんで僕が――いや、それよりもよりによって相手があの冷酷非情な兎女王!?)
頭の中を混乱が占める中、不意に女王が口を開いた。
「李順。手を出してはダメなのか?」
呼ばれた李順は体の向きを変え、顰めっ面で女王に告げる。
「今、陛下にご懐妊されたら支障が出てしまいますので」
女王は李順の言葉を聞き終えると、「つまらない」と溜息を吐いた。
「「は?」」
予想し得ない単語に2人の男の呆けた声が重なる。
「だってそうだろう? せっかく愛らしい小犬が来たというのに手も出せないとは」
冷たい表情ではなく、今度は妖艶な微笑(びしょう)が女王の顔に浮かぶ。
それを見た黎翔は背筋に這う寒気を感じ、一方李順は眉間に皺を寄せたのだった。

――『兎女王』とは、即位後早々に国内の反乱を鎮圧、また王宮内の腐敗政治を見事に粛清した女王・汀夕鈴の通称である。
ちなみに『兎』というのは一見か弱く隙があるように見えるが、いざとなれば鋭い牙を向くことから付けられた、女王の冠詞だ。
さらにこの国で、“女の統率者”という存在は極めて稀と言える。若くして即位、しかも女王ということで有能でありながら臣下達からは遠巻きにされる、孤高な女性なのである。

「お給料がいいバイトって父さんに言われて来たけど、いくらなんでも予想外だよ……」
衝撃的な対面の後、女官に案内を命じているからこの回廊をまっすぐ進むよう指示された。黎翔は歩きながら弱々しくつぶやく。
事の発端は、彼の父が持ってきた話だ。しかし詳細は教えられなかった。そもそも聞かされていなかったのだろう、事が事だ。
彼の生まれ育った珀家は、以前地元では名だたる名家だった。
過去形なのは、その威光が祖父の代までの話であったからである。
父の代から小さな綻びが生まれ、跡継ぎである年の離れた兄は放蕩生活を送り、行く先々で微々たる財産を酒や女に費やしている。おかげで家計は火の車という状態だ。弟の黎翔が借金や兄のツケを支払うために日々身を粉にして働いている。高賃金の仕事があれば生活も楽になるが、そういう仕事は学がなければ難しい。
本当は文官になって王宮に勤めたかったが、学問所の学費を工面できず諦めるしかなかったのだ。
そこに降って沸いた仕事が、詳細を一切伏せられていた『臨時の婿』だ。
黎翔は先ほどのやりとりを反芻する。
(でもどう考えても、婿なんて仕事は気が重すぎる。王宮のことさえ全然知らないのに)
立ち止まってしばし考えた結果。
(やっぱり断ろう!)
いざ決心すればあとは辞退の意思を伝えるのみ。黎翔は踵(きびす)を返し、歩いてきた回廊を戻る。
部屋の入り口に近づいた途端に話し声が耳に入った。彼は気づかれないように、部屋の入り口際で身を潜める。
「あのぅ、李順さん。この作戦やっぱり無理がありませんか?」
「まだ気を抜かずに! 人払いはしておりますが……」
「で、でも」
「まったく……彼には“それ”バレないようにしてくださいよ!?」
(この声……?)
「彼に『も』でしょう?」
突然部屋から出てきた何者かと出会い頭にぶつかった。
「わっ」
ぶつかった時の衝撃で相手がよろけたので、咄嗟に黎翔が相手の腕を掴む。
「あ、ありがとうござ…………」
転んでしまうのを防いだ黎翔に礼を伝えようと、“深紅の着物を身にまとった者”が見上げる。しかし、目が合うと口をぽかんと開いて硬直した。それから見る見る内に顔色を失っていく。その様子は先ほどの黎翔のようである。
わなわなと震える唇が大きく開いたと思った瞬間、
「……りっ」
「り?」
「李順さん! ごめんなさいお婿さんまだいましたー!」
「!? なっ、女官の案内に従ってくださいと――」
李順が慌てた様子で入り口に駆け寄ってきた。掴んでいる細い腕から女王の震えが伝わる。
「えっ!? え、ええええ!?」

先ほどよりも人払いを厳重に済ませた一室。
混乱している黎翔の正面に座る夕鈴は簡素な着物に着替え、顔は心配になるほど青白い。
誰も何も言わない中、側に控えている李順が咳払いをして沈黙を破った。
「兎女王こと陛下は結婚適齢期を大幅に過ぎておりますが、現在陛下にそのような暇はありません。ですが情勢が落ち着いてきた最近は大臣達が縁談を持ちかけてきたので、縁談避けにアルバイトを雇うことにしたのです」
李順による説明の間も、夕鈴は深く俯いている。
「それと……これは国家機密ですが、先ほどの陛下の強気な態度はハッタリです。本来のお姿はこの状態です」
「はい? ……えっ、待ってください、こっちは国家機密なんて知りたくありません!」
「不可抗力とは言え、陛下の本性をご覧になってしまわれたのですからお教えしたまでです」
狼狽える黎翔に、李順が容赦なくさらっと言い放つ。
「さて。白陽国史上最大の秘密を知られたからには外に漏れたら貴方の一族郎党、地上から抹消しますので」
どす黒いオーラに身を包んだ李順が眼鏡を光らせ、恐ろしいほどの笑顔を浮かべる。
「そんなあぁ!」
黎翔の絶望的な叫びが部屋にこだました。

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『兎女王と小犬婿 2』へ続く。
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