幸せな音

【ひみつの姫君うわさの王子】【狼陛下の花嫁】二次創作サイト。2012/1/12/開設



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惑わせるは輝くばかりに美しい黒髪の姫 :: 2013/10/01(Tue)

お題サイト様:because
choice95:惑わせるは輝くばかりに美しい黒髪の姫

イジー×アルディーナ(婚約中)
イジー視点

 
アルディーナがいつの間にか眠っていた。
元々彼女はイジーの執務室で彼の仕事の邪魔をしないようにと、机の傍にあるソファに座っていたのである。それまで黙々と書類仕事をこなしていたイジーだったが、ふと視線を書類から外す。
今日も男装姿のアルディーナは横になってクッションの上に頭を載せていた。彼は初め、アルディーナの気分が悪くなったのかとぎょっとして席を立った。しかしソファに静かに近づくにつれ、それは杞憂だと分かる。暖かな部屋の空気に誘われたのか、すやすやと眠っているからである。寝顔を窺ってからほっと息をついた。
そのまま自分の席に戻らずにアルディーナの横――クッションと肘掛の間に生まれたスペース――に腰掛ける。華奢な体ゆえに、普通のサイズのソファが大きなものに錯覚する。ソファが重みで沈んだ瞬間に起きてしまうのではないかと座ってから気づいたが、起きた素振りはなかった。そうして気遣いながらゆっくり座った。
大きな窓から入り込む陽に照らされた漆黒の髪。それが頬を滑り落ちる。口元にかかりそうになるのを防ごうとして、イジーは手を伸ばす。
「ん……」
薔薇色の唇から声が漏れるが、それはまだ触れる前だった。今度こそ起きたのかとイジーは伸ばしていた手をその場で止める。しばらくしても瞼は開かれず、すぅ、と再び規則正しい寝息が聞こえてきた。
普段、この髪に触れることは少ない。頭を撫でることはある。しかし、手を繋ぐだけで精一杯の彼女には、それ以上の接触は彼女自身の許容量を超えそうな気がするのだ。ただ、それは起きている時の話。
――眠っている今なら触れられるのではないか。そんな思いが胸を占める。
もちろん、気持ちよさそうに眠る彼女の眠りを妨げるつもりも、寝込みを襲うつもりもない。自分の手を引っ込め、肘掛に肘を置く。そして彼は自分の前髪に指を埋(うず)めた。しばし心を落ち着かせられるよう努めるために。
それから幾分か冷静を取り戻して、隣に横たわるアルディーナを眺める。
(……そういえば、髪は伸びた、のか……?)
アルディーナはイジーの表情のごくわずかな変化によく気づく。反対にイジー自身は変化や女心の機微に疎い。むしろ気づく方が珍しいと言っても過言ではない。そして、また視線を移す。
(……柔らかそうな髪だな)
クセのない黒髪の毛先はきちんと整えられ、ハネ1つない。吸い寄せられるように無意識に手を伸ばす。うっかり指が肌に触れて目覚めさせないようにしながら。そして、武骨な指に絹のような手触りの髪が絡む。
(仮面舞踏会の時はカツラをつけていたな)
思い出されるのは、友人から半ば強引に誘われた仮面舞踏会のこと。
彼は虫除けの意味を込めて、アルディーナには男装をさせた。しかし姿を見失った後に目にしたのは、化粧を施され正装のドレスに身を包んだ姿。広間にいた全員が、一緒に踊っていた仮面の男へ向けるものと同じように目を奪われていた。
(それに加えてあまりにも無防備なことを言ったから、あの時はついあんなことをしたが……)
未遂の出来事だったとは言え、しばらくギクシャクさせた原因を作ったのはイジー自身であり、同時に自己嫌悪に近いものを抱いたのである。
彼女が長い髪を靡(なび)かせながら放った言葉が、あの瞬間イジーの自制心を失くさせたということについては知らないままだろう。
(……無自覚でこちらが予想できないことをするからこそ、惑わされるのだろうな)
などと思いながら、彼は口角をわずかに上げる。
この美しい髪のように、なんてことない仕草が、健気な言葉が、輝く表情が彼を試すように惑わせるのだ。

アルディーナが自然と目覚めるまで、イジーは榛(はしばみ)色の瞳を細めながら、飽きずに髪を梳いていた。

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寝てるアルディーナの髪に触れながらひとりごちるイジー様、というただそれだけの話。
眠っていてもイジーを誘惑するアルディーナ、末恐ろしい……と思いながら書いていました(笑)
ちなみに、イジーの瞳の色については捏造です。
コミックスでは言及されていません。
某少女小説読みきりのヒーローの瞳が榛色で、コミックスの表紙のイジーの瞳の色と似てると思って採用しました。
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